映画『野獣死すべし』 と ショパン

 練習曲とピアノソナタ以外では 今でも時々 仲道郁代さんやツィメルマンのCDをiPodに入れてショパンのピアノ協奏曲第1番を聞くことがあります。

ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番

ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番

 この曲を聴いていて思い出すのが、松田優作の映画『野獣死すべし』です。

野獣死すべし [DVD]

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この映画の公開が1980年なんですが、記憶ではどこかの映画館で見た気がするので、おそらく田舎町の場末の映画館のオールナイトで見ていたのかもしれません。当時ロードショーなどにはまず行かなかったので、何かの3本立てぐらいで見ていたのかも。

 なぜかこの映画にはあまり似つかわしくない センチメンタルなピアノ協奏曲第1番が鳴っていました。
 映画のために作曲するほどの予算がなかったのもあるでしょうけど、また監督か誰かが好きだったのかもしれませんが、安直に選んだ感じがします(共演の小林麻美が後に出すのは「雨音はショパンの調べ」だけどタマタマ(^_^)ででしょうし)、 けれども合っていないせいもあって妙に印象に残ってしまったんです。

 最近の映画だったら多分この選曲はしないでしょうね。それなりにみんな知ってるし、ショパンの若書きのコンチェルトは選ばない気がします、「羊たちの沈黙」のハンニバルゴルトベルク変奏曲のようにバロックとか、またはオペラ好きに設定して、モーツァルトのドンジョバン二とかロマン派以降だったらナチスが好きだったワーグナーの『神々の黄昏』とかのほうが、映画の内容と合うような気がします。ロマン派だったら、シューベルトの方があっているような気がします。

 ショパンのピアノ協奏曲第1番としっくりくるのは、小説の中でこの曲が使われている福永武彦の『草の花』です。

草の花 (新潮文庫)

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あの大林宣彦監督が暗記するほど好きだった小説だったと記憶しています。もう大林監督は映画化しないんでしょうかね。(大林監督はこの曲を既に映画の音楽に使ってしまってるんですね。)

「それが僕の予定した僕の青春の最後の一頁だった。もし千枝子が来れば、僕は彼女と一緒にショパンを聞き(その演奏会は、彼女の好きなショパンばかりの番組だった)、それから別れて汽車で立つだろう。もし来なければ・・・」

 そして彼女は来なかったわけで、

「藤木、と僕は心の中で呼び掛けた。藤木、君は僕を愛してはくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう……。 次第に速力を早くする夜汽車の窓によって、僕はいつまでも、冷たい窓硝子に顔を当てていた」

 これが主人公の手記の最後のところ。この青春の雰囲気 失恋して赤紙の召集で戦争に向かう主人公(ここにはあの酷い太平洋戦争は描かれていません、ロマンティックです)、ショパンにしっくりくるのです。

 もうこういう甘いところのある小説に入り込めるような年齢でもないんで、最近の若い人たちが読んでどう感じるのかは??ですが、
福永武彦の小説は、「風土」では ベートーヴェンの月光を使ったり、「死の島」ではシベリウス、「告別」ではマーラー大地の歌と音楽をうまく小説に取り込んでいます。